士が、隊を為し列を作つて此《こ》の狭い田舎町を通過した折りのさまを描《か》いて見た。

 其夜《そのよ》は征西将軍《せい/\しやうぐん》の宮の大祭で、町は賑《にぎや》かであつた。街頭をぞろぞろと人が通《とほ》つた。花火が勇ましい音を立てゝあがると、人々が皆《み》な足を留めて振返《ふりかへ》つた。
 郵便局の角から入ると、それから二三|町《ちやう》の間《あひだ》は露店のランプの油烟《ゆえん》が、むせるほどに一杯に籠《こも》つて、往《ゆ》きちがふ人の肩と肩とが触れ合つた。田舎のお祭によく見るやうな見せ物――豹《ひよう》、大鱶《おほふか》、のぞき機関《からくり》、活動写真、番台の上の男は声を嗄《から》して客を呼んで居《ゐ》る。旅行用の枕を大負けに負けて売つてるものの隣《とな》りに、不思議に中《あた》る人相見《にんさうみ》の洋服の男がゐて、その周囲を取巻いて、人が黒山のやうにたかつて居《ゐ》る。をり/\摩違《すれちが》ふ娘の顔は白かつた。
 雑踏した長い馬場《ばゞ》を通り越すと、夜目にもそれと知らるゝ蓮池があつて、夏の夜風が白い赤い花と広葉《ひろば》とを吹動《ふきうご》かした。其《その》奥には
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