て『これがお前の父《おとつ》さんのお墓だよ。父《おとつ》さんは此処《こゝ》に居《ゐ》るんだよ。成長《おほき》くなつたら、行つて御覧?』
 またある時は、
『生きて居《ゐ》るなら、何《どん》なに遠くつても、お金を持《もつ》て、訪ねて行《ゆ》くけれど、お墓になつて居《ゐ》てはねえ!』
 母親の眼からは涙が流れた。その時に限らず、母親の膝を枕に、私《わたし》は其《そ》の父親の話――御国《みくに》の為《た》めに戦死した豪《えら》い父親の話を聞いて居《ゐ》ると、いつも私《わたし》の頬《ほう》に冷たいものゝ落ちるのが例《れい》であつた。母親は其《その》話をしては泣かずには居《ゐ》られなかつた。
 姉は其《その》頃十五六で、
『お前なぞは男だから、成長《おほき》くなつたら、いくらでもお墓|参《まゐり》が出来るけれど、私《わたし》などは女だから、ねえ母《おつか》さん。……でも、一生に一度はお参《まゐ》りしたい!』
 私《わたし》は子供心《こどもごゝろ》に、父親のことを考へた。国の為《ため》に死んだ豪《えら》い父親! 其《その》墓のある処《ところ》はどんな処《ところ》だらうと思つた。
 故郷の藁葺家《わ
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