みせ》、葉茶屋《はぢやや》、呉服商、絵葉書屋などが並んで居《ゐ》た。孰《いづ》れも古い家屋《かをく》ばかりで、此処《こゝ》らあたりの田舎町の特色がよく出て居《ゐ》た。町の中央に、芝居小屋があつて、青い白い幟《のぼり》が幾本《いくほん》となく風にヒラヒラして居《ゐ》た。
私《わたし》の想像は二十年|前《ぜん》の私《わたし》の故郷の藁葺《わらぶき》の田舎|家《や》に私《わたし》を連れて行つた。
母親は筒袖《つゝそで》を着て、いざり機《ばた》をチヤンカラチヤンカラ織つて居《ゐ》た。大名縞《だいめうじま》が梭《おさ》の動く度《たび》に少しづゝ織られて行く。裏には栗の樹《き》が深い蔭《かげ》をつくつて、涼しい風を絶えず一|室《しつ》に送つて来る。壁に張つてある煤《すゝ》けた西南戦争の錦絵《にしきゑ》を私《わたし》は子供心《こどもごゝろ》によく覚えて居《ゐ》た。
『肥後八|代《しろ》横手村《よこてむら》』
母親はよく其《その》村のことを話した。四ツ切の大きな写真が箪笥《たんす》の底に蔵《しま》つてあつた。墓がいくつとなく並んで居《ゐ》る写真であつた。其《その》墓の一つを母親が指《ゆびさ》し
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