午後の空に、起伏した山の皺《しわ》が明《あきら》かに印《いん》せられた。
 堤防の尽きた処《ところ》から、路《みち》はだらだらと下《お》りて、汚ない田舎町に入つて行く。
 路《みち》の角に車夫が五六人、木蔭《こかげ》を選んで客待《きやくまち》をして居《ゐ》た。其傍《そのかたはら》に小さな宮があつて、其《その》広場で、子供が集《あつま》つて独楽《こま》を廻して居《ゐ》た。
 思ひも懸けぬ細い路《みち》が、更に思ひもかけぬ汚い狭い衰《おとろ》へた町を前に展《ひろ》げた。溝《どぶ》の日に乾く臭《にほひ》と物の腐る臭《にほひ》と沈滞した埃《ほこり》の交《まじ》つた空気の臭《にほひ》とが凄《すさま》しく鼻を衝《つ》いた。理髪肆《とこや》の男の白い衣《ころも》は汚れて居《ゐ》るし、小間物屋の檐《のき》は傾いて居《ゐ》るし、二階屋の硝子窓は塵埃《ほこり》に白くなつて居《ゐ》るし、肴屋《さかなや》の番台は青く汚くなつて居《ゐ》るし、古着屋の店には、古着、古足袋、古シヤツ、古ヅボンなどが一面に並べてあるし、何処《どこ》を見ても衰《おとろ》への感じのしないものはなかつた。
 とある道の角に、三十|位《ぐら
前へ 次へ
全18ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング