とうばら》で、長い路を歩いて来たので、少なからず飢《うえ》を覚えていたのである。
その日の晩餐《ばんさん》は寺で調理してくれた。里芋と筍《たけのこ》の煮付け、汁には、たけたウドが入れられてあった。主僧は自分の分もここに持って来させて、ビールを二本|奢《おご》って、三人して団欒《だんらん》して食った。文学の話、人生問題の話、近所の話、小学校の話、主僧のお得意の禅の話も出た。庭に近く柱によった主僧の顔が白く夕暮れの空気に見えた。
長い廊下に小僧が急ぎ足でこっちにやってくるのが見えたが、やがてはいって来て、一通の電報を主僧に渡した。
急いで封を切って読み終わった主僧の顔色は変わった。
「大島孤月《おおしまこげつ》が死んだ!」
「孤月さんが――」
二人もおどろきの目をみはった。
大島孤月といえば、文学好きの人はたいてい知っていた。某書肆《ぼうしょし》の女婿《じょせい》で、創作家としてよりも書肆の支配人としての勢力の大きな人であった。昨年の秋|泰西漫遊《たいせいまんゆう》に出かけて、一月ほど前に帰朝した。送別会と歓迎会、その記事はいつも新聞紙上をにぎわした。雑誌にもいろいろなことが書い
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