窓には朝日がすでに長《た》けて、校長の修身を教える声が高くあきらかにあたりに聞こえる。急いで行ってみると、受持ちの組では生徒がガヤガヤと騒いでいた。

       十三

 熊谷町《くまがやまち》にもかれの同窓の友はかなりにある。小畑《おばた》というのと、桜井というのと、小島というのと――ことに小畑とはかれも郁治も人並みすぐれて交情《なか》がよかった。卒業して会われなくなってからは毎日のように互いに手紙の往復をして、戯談《じょうだん》を言ったり議論をしたりした。月に一二度は清三はきっと出かけた。
 行田町から熊谷町まで二里半、その路はきれいな豊富な水で満たされた用水の縁に沿ってはしった。田圃《たんぼ》ごとに村があり、一村ごとに田圃が開けるというふうで、夏の日には家の前の広場で麦を打っている百姓家や、南瓜《とうなす》のみごとに熟している畑や、豪農の白壁《しらかべ》の土蔵などが続いた。秋の晴れた日には、田圃から村に稲を満載した車がきしって、黄《き》いろく熟した田には、頬《ほお》かむりをした田舎娘が、鎌《かま》の手をとめて街道を通って行く旅人の群れをながめた。その街道にはいろいろなものが通
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