城を知っていると言うので、それでつれだって訪問した。
「それはおもしろいですな……それはおもしろいですな」
こうくり返して主僧は言った。「行田文学」についての話が三人の間に語られた。
「むろん、ご尽力しましょうとも……何か、まア、初めには詩でもあげましょう。東京の原にもそう言ってやりましょう……」
主僧はこう言って軽く挨拶した。
「どうぞなにぶん……」
清三は頼んだ。
「荻生君もお仲間ですか」
「いいえ、私には……文学などわかりゃしませんから」と荻生さんはどこか町家の子息《むすこ》といったようなふうで笑って頭をかいた。中学にいるころから、石川や加藤や清三などとは違って、文学だの宗教だのということにはあまりたずさわらなかった。したがって空想的なところはなかった。中学を出るとすぐ、前から手伝っていた郵便局に勤めて、不平も不満足もなく世の中に出て行った。
主僧の室は十畳の一|間《ま》で、天井は高かった。前には伽羅《きゃら》や松や躑躅《つつじ》や木犀《もくせい》などの点綴《てんてつ》された庭がひろげられてあって、それに接して、本堂に通ずる廊下が長く続いた。瓦屋根と本堂の離れの六畳の障子
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