なの》らせらるるということがご発表になりました」
こう言って、かれは後ろ向きになって、チョオクを取って、黒板に迪宮裕仁親王という六字を大きく書いてみせた。
十一
「どうぞ一つ名誉賛成員になっていただきたいと存じます……。それに、何か原稿を。どんなに短いものでも結構ですから」
清三はこう言って、前にすわっている成願寺《じょうがんじ》の方丈《ほうじょう》さんの顔を見た。かねて聞いていたよりも風采のあがらぬ人だとかれは思った。新体詩、小説、その名は東京の文壇にもかなり聞こえている。清三はかつてその詩集を愛読したこともある。雑誌にのった小説を読んだこともある。一昨年ここの住職になるについても、やむを得ぬ先住《せんじゅう》からの縁故があったからで、羽生町《はにゅうまち》で屈指《くっし》な名刹《めいさつ》とはいいながら、こうした田舎寺には惜しいということもうわさにも聞いていた。それが、こうした背の低い小づくりな弱々しそうな人だとは夢にも思いがけなかった。
かれは土曜日の家への帰りがけに、羽生の郵便局に荻生秀之助《おぎゅうひでのすけ》を訪ねたが、秀之助がちょうど成願寺の山形古
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