やって来たのは、関という教員であった。
やさしい眼色《めつき》と、にこにこした円満な顔には、初めて会った時から、人のよさそうなという感を清三の胸に起こさせた。この人には隔《へだ》てをおかずに話ができるという気もした。
「どうでした、一時間おすみになりましたか」
「え……」
「どうも初めてというものは、工合《ぐあ》いの悪いものでしてな……私などもつい三月ほど前にここに来たのですが、始めは弱りましたよ」
「どうもなれないものですから」
この同情を清三もうれしく思った。
「私の前に勤めていた方はどういう方でした」
「あの方はもう年を取ったからやめさせるという噂《うわさ》が前からあったんです。今泉の人で、ずいぶん古くから教員はやっているんだそうですが……やはり若いものがずんずん出て来るものだから……それに教員をやめても困るッていう人ではありませんから」
「家には財産があるんですか」
「財産ということもありますまいが、子息《むすこ》が荒物屋の店をしておりますから」
「そうですか」
こんな普通な会話もこの若い二人を近づける動機とはなった。二人はベルの鳴るまでそこに立って話した。
午後には理
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