であげましょう、よく聞いておいでなさい」
今度のはいっそうはっきりしていた。早くもおそくもなかった。
読める人に手を上げさせて、前の列にいる色の白い可愛い子に読ませてみたり何かした。読めるのもあれば読めぬのもあった。清三は文章の中からむずかしい文字を拾って、それを黒板に書いて、順々に覚えさせていくようにした。ことにむずかしい字には圏点《けんてん》をつけてそのそばに片仮名でルビをふってみせた。卓《テーブル》の前に初めて立った時の苦痛はいつかぬぐうがごとく消えて、自分ながらやりさえすればやれるものだという快感が胸にあふれた。やがて時間が来てベルが鳴った。
昼飯《ひるめし》は小川屋から運んで来てくれた。正午の休みに生徒らはみんな運動場に出て遊んだ。ぶらんこに乗るものもあれば、鬼事《おにごと》をするものもある。女生徒は男生徒とはおのずから別に組をつくって、綾《あや》を取ったり、お手玉をもてあそんだりしている。運動場をふちどって、白楊《やなぎ》の緑葉がまばらに並んでいるが、その間からは広い青い野が見えた。
清三は廊下の柱によりかかって、無心に戯《たわむ》れ遊ぶ生徒らにみとれていた。そこに
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