あゝわれつひに田舎《いなか》の一教師に埋《うも》れんとするか。明日! 明日は万事定まるべし。村会の夜の集合! 噫《ああ》! 一語以て後日《ごじつ》に寄す」と書いた。なおくわしくその心持ちを書こうと思ったが、とうてい十分に書き現わし得ようとも思えぬので、記憶にとどめておくことにした。
 翌日、朝九時に学校に行ってみた。けれどその平田というのがまだいたので、一まず役場に引き返した。一時間ばかりしてまた出かけた。
 今度はもうその教員はいなかった。授業はすでに始まっていた。生徒を教える教員の声が各教場からはっきりと聞こえて来る。女教員のさえた声も聞こえた。清三の胸はなんとなくおどった、教員室にはいると、校長は卓《テーブル》に向かって、何か書類の調物《しらべもの》をしていたが、
「さアはいりたまえ」と言って清三のはいって来るのを待って、そばにある椅子《いす》をすすめた。
「お気の毒でした。ようやくすっかり決《き》まりました。なかなかめんどうでしてな……昨夜の相談でもいろいろの話が出ましてな」こう言って笑って、「どうも村が小さくって、それでやかましい学務委員がいるから困りますよ」
 校長は言葉を
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