ついで、
「それで家のほうはどうするつもりです? 毎日|行田《ぎょうだ》から通うというわけにもいくまい。まア、当分は学校に泊まっていてもいいけれど……考えがありますか」
「どこか寄宿するよいところがございますまいか」とこれをきっかけに清三が問うた。
「どうも田舎《いなか》だから、格好《かっこう》なところがなくって……」
「ここでなくっても、少しは遠くってもいいんですけれど……」
「そうですな……一つ考えてみましょう。どこかあるかもしれません」
二時間すんだところで、清三は同僚になるべき人々に紹介された。関という準《じゅん》教員は、にこにこと気がおけぬようなところがあった。大島という校長次席は四十五六ぐらいの年かっこうで、頭はもうだいぶ白く、ちょっと見ると窮屈《きゅうくつ》そうな人であるが、笑うと、顔にやさしい表情が出て、初等教育にはさもさも熟達しているように見えた。「はあ、この方が林さん、私は大島と申します。何分よろしく」と言った言葉の調子にも世なれたところがあった。次に狩野《かのう》という顔に疣《ほくろ》のある訓導と杉田という肥った師範《しはん》校出とが紹介された。師範校出はなんだ
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