子は十五であった。清三が毎日のように遊びに行くと、雪子はつねににこにことして迎えた。繁子はまだほんの子供ではあるが、「少年世界」などをよく読んでいた。
 家が貧しく、とうてい東京に遊学などのできぬことが清三にもだんだん意識されてきたので、遊んでいてもしかたがないから、当分小学校にでも出たほうがいいという話になった。今度月給十一円でいよいよ羽生《はにゅう》在の弥勒《みろく》の小学校に出ることになったのは、まったく郁治の父親の尽力《じんりょく》の結果である。
 路のかたわらに小さな門があったと思うと、井泉村役場《いずみむらやくば》という札《ふだ》が眼にとまった、清三は車をおりて門にはいった。
「頼む」
 と声をたてると、奥から小使らしい五十男が出て来た。
「助役さんは出ていらっしゃいますか」
「岸野さんかな」
 と小使は眼をしょぼしょぼさせて反問《はんもん》した。
「ああ、そうです」
 小使は名刺と視学からの手紙とを受け取って引っ込んだが、やがて清三は応接室に導《みちび》かれた。応接室といっても、卓《テーブル》や椅子《いす》があるわけではなく、がらんとした普通の六畳で、粗末《そまつ》な瀬戸
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