「むろんそうだろう。羽生の局をやっているのは荻生君の親類だから」
「それはいいな」
「君の話相手ができて、いいと僕も思ったよ」
「でも、そんなに親しくはないけれど……」
「じき親しくなるよ、ああいうやさしい人だもの……」
そこにしげ子が「昼間こしらえたのですから、まずくなりましたけれど……」とお萩餅《はぎ》を運んで、茶をさして来た。そのまま兄のそばにすわって、無邪気な口《くち》ぶりで二|言《こと》三|言《こと》話していたが、今度は姉の雪子が丈《たけ》の高い姿をそこにあらわして、「兄さん、石川さんが」という。
やがて石川がはいって来た。
座に清三がいるのを見て、
「君のところに今寄って来たよ」
「そうか」
「こっちに来たッてマザアが言ったから」こう言って石川はすわって、「先生がうまくつとまりましたかね?」
清三は笑っている。
郁治は、「まだできるかできないか、やってみないんだとさ」
とそばから言う。
雪子もしげ子も石川の顔を見ると、挨拶《あいさつ》してすぐ引っ込んで行ってしまった。郁治と清三と話している間は、話に気がおけないので、よく長くそばにすわっているが、他人が交《まじ
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