「それから、羽生《はにゅう》の成願寺《じょうがんじ》に山形古城がいるアねえ。あの人はあれでなかなか文壇には聞こえている名家で、新体詩じゃ有名な人だから、まず第一にあの人に賛成員になってもらうんだね。あの人から頼んでもらえば、原香花《はらきょうか》の原稿ももらえるよ」
「あの古城ッていう人はここの士族だッていうじゃないか」
「そうだッて……。だから、賛成員にするのはわけはないさ」
 ちょうど清三が弥勒《みろく》に出るようになった時なので、かれがまずその寺を訪問する責任を仲間から負わせられた。
 その夜、「行田文学」の話が出ると、郁治が、
「寄ってみたかね?」
「あいにく、雨に会っちゃッたものだから」
「そうだったね」
「今度行ったら一つ寄ってみよう」
「そういえば、今日|荻生《おぎゅう》君が羽生に行ったが会わなかったかねえ」
「荻生君が?」と清三は珍しがる。
 荻生君というのは、やはりその仲間で、熊谷の郵便局に出ている同じ町の料理店の子息《むすこ》さんである。今度羽生局に勤めることになって、今車で行くというところを郁治は町の角《かど》で会った。
「これからずッと長く勤めているのかしら」

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