知録《こうかんいちろく》、史記、五経、唐宋八家本《とうそうはっかぶん》などと書いた白い紙がそこに張られてあった、三尺の半床《はんどこ》の草雲《そううん》の蘭の幅《ふく》のかかっているのが洋燈《らんぷ》の遠い光におぼろげに見える。洋燈《らんぷ》の載《の》った朴《ほお》の大きな机の上には、明星、文芸倶楽部、万葉集、一葉全集などが乱雑に散らばって置かれてある。
 一年も会わなかったようにして、二人は熱心に話した。いろいろな話が絶え間なく二人の口から出る。
「君はどう決《き》まった?」
 しばらくして清三がたずねた。
「来年の春、高等|師範《しはん》を受けてみることにした。それまでは、ただおってもしかたがないからここの学校に教員に出ていて、そして勉強しようとおもう……」
「熊谷《くまがや》の小畑《おばた》からもそう言って来たよ。やっぱり高師を受けてみるッて」
「そう、君のところにも言って来たかえ、僕のところにも言って来たよ」
「小島や杉谷はもう東京に行ったッてねえ」
「そう書いてあったね」
「どこにはいるつもりだろう?」
「小島は第一を志願するらしい」
「杉谷は?」
「先生はどうするんだか……
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