の声をよそに聞いていると思った時、清三の眼には涙があふれた。
 屍《かばね》となって野に横たわる苦痛、その身になったら、名誉でもなんでもないだろう。父母《ちちはは》が恋しいだろう。祖国が恋しいだろう。故郷《ふるさと》が恋しいだろう。しかしそれらの人たちも私よりは幸福だ――こうして希望もなしに病《やまい》の床に横たわっているよりは……。こう思って、清三ははるかに満州のさびしい平野に横たわった同胞を思った。

       六十二

 枕もとにすわった医師《いしゃ》の姿がくっきりと見えた。
 父親はそれに向かって黙然《もくねん》としていた。母親は顔をおおって、たえずすすりあげた。
 室《へや》のまんなかにつったランプは、心《しん》が出過ぎてホヤがなかば黒くなっていた。室には陰深《いんしん》の気が充ちわたって、あたりがしんとした。鬚《ひげ》を長く、頬骨《ほおぼね》が立って、眼をなかば開いた清三の死《し》に顔《がお》は、薄暗いランプの光の中におぼろげに見えた。
 医師の注射はもう効《かい》がなかった。
 母親のすすりあげる声がしきりに聞こえる。
 そこに、戸口にけたたましい足音がして、白地の絣
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