「ナアに、こんな病気に負けておりゃせんから、母《おっか》さん。心配しないほうがいいよ。今死んでは、生まれて来たかいがありゃしない」
「ほんとうともねえ、お前」
「世の中というものは思いのままにならないもんだ!」
 言葉は強かったが、一種の哀愁は仏壇の灯《あかり》のみ明るい一室に充ちわたった。
        *    *    *    *    *
 隣近所では病人が日増《ひま》しに悪くなるのを知った。医師《いしゃ》が毎日|鞄《かばん》を下げてやって来る。荻生さんが心配そうな顔をしてちょいちょい裏からはいって来る。一週間前までは、蒼白にやせはてた顔をして、頭髪《かみのけ》をぼうぼうさせて、そこらをぶらぶらしている病人の姿を人々はよく見かけたが、このごろでは、もうどっと床について、枕を高く、やせこけて、螽斯《ばった》のようになった手を蒲団《ふとん》の外になげだすようにして寝ているのが垣の間から見える。井戸端などで母親に容体を聞くと、「どうも少しでもいいほうに向かってくれるといいのですけれど……」と言って、さもさも心配にたえぬような顔をした。
 肺病だろうということは誰も皆前から想像し
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