「ほんとうにさ……」
「父《おとっ》さんがつごうがよければ行ってもらいたいと思っていたんだけれど……」
「ほんとうに、遠くなって淋しがっているだろう」
 清三は亡くなった弟をしみじみ思った。
「明日あたり私がお参りに行こうかと思っているけれど……」
「ナアに、治ってから行くからいいさ」
 しばらく黙った。
 母子《おやこ》の胸には今月の払《はら》いのことがつかえている。薬代、牛乳――それだけでもかなり多い。今月は父親のかせぎがねっからだめだった上に、母親も病気で毎月ほど裁縫をしなかった。先ほど、医師《いしゃ》から勘定書きを書生が持って来たのを母親は申しわけなさそうにことわっていた。
「なアに、父さんが帰って来れば、どうにかなるから、心配せずにおいでよ」
 と母親はその時言った。
 父親が帰って来てもだめなことを清三は知っている。
「病気さえしなけりゃなア!」
 と清三は突然言った。
 やがて言葉をついで、「こんな病気にかかりさえしなけりゃ、今年はちっとは母さんにも楽をさせられたのになア!」
 母親はオドオドして、
「そんなことを思わないほうがいいよ。それより養生《ようじょう》して!」
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