てそれを飛んだりまたいだりする。清三の家では、その日父親が古河《こが》に行ってまだ帰って来なかったので、母親は一人でさびしそうに入り口にうずくまって、苧《お》[#「苧」は底本では「績」]がらを集めて形ばかりの迎え火をした。大家《おおや》の入り口にはいま少し前|焚《た》いた火の残りが赤く闇に見える。
 軒には昨年の盆に清三が手ずから書いた菊の絵の燈籠《とうろう》がさげてある。清三は便所に通うのに不便なので、四五日前から、床《とこ》を下の六畳に移した。
 風にゆらぐ盆燈籠をかれはじっと見ていた。大家の軒の風鈴《ふうりん》の鳴る音がかすかに聞こえる。仏壇には灯《あかり》がついていて、蓮《はす》の葉の上に供《そな》えた団子だの、茄子《なす》や白瓜でつくった牛馬だの、真鍮《しんちゅう》の花立てにさしたみそ萩などが額縁《がくぶち》に入れた絵のように見える。明るい仏壇の中はなんだか別の世界でもあるかのように清三には思われた。
 母親がそこへはいって来て、
「病気でないと、政一《まさいち》(弟の名)のところにもお参りに行ってもらうんだけれど……今年は花も上げてくれる人もないッてさびしがっているだろう」
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