しゃくり》も激しく出た。土用のあけた日で、秋風の立ったのがどことなく木の葉のそよぎに見える。座敷にさし入る日光から考えて、太陽も少しは南に回ったようだなどと清三は思った。そこに郁治《いくじ》がひょっくり高等師範の制帽をかぶった姿を見せた。この間うちから帰省していて、いずれ近いうちに新居を訪問したいなどという端書《はがき》をよこしたが、今日は加須《かぞ》まで用事があってやって来たから、ふと来る気になって訪ねたという。郁治は清三のやせ衰えた姿に少なからず驚かされた。それに顔色の悪いのがことに目立った。
親しかった二人は、夕日の光線のさしこんだ二階の一間に相対してすわった。相変わらず親しげな調子であるが、言葉は容易に深く触《ふ》れようとはしなかった。時々話がとだえて黙っていることなどもあった。
「小畑はこの間日光に植物採集に出かけて行ったよ」
こんなことを言って、郁治はとだえがちなる話をつづけた。
清三は、「君、帰ったら、ファザーに一つ頼んでみてくれたまえな。どうもこう体《からだ》が弱っては、一里半の通勤はずいぶんつらいから、この町か、近在かにどこか転任の口はないだろうかッて……。弥勒
前へ
次へ
全349ページ中319ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング