ころにいい口があったら、転任させてもらいたいということをも頼んだ。石川の店では、小僧が忙しそうに客に応対していた。そこへ番頭が向こうから自転車をきしらして帰って来て、ひらりと飛び下りた。沢田さんは真黒になって働きながら、「こっちのほうに来た時にはぜひ寄ってください」と言った。清三は最後に弟の墓を訪《と》うた。祖父の墓は足利にある。祖母の墓は熊谷にある。こうして、ところどころに墓を残して行く一家族の漂泊的《ひょうはくてき》生活をかれは考えて黯然《あんぜん》とした。一人他郷に残される弟はさびしかろうなどとも思った。あじさいの花は墓を明るくした。
 道具とてもない一家の移転の準備は簡単であった。箪笥《たんす》と戸棚とを薦《こも》でからげ、夜具を大きなさいみの風呂敷で包んだ。陶器はすべて壊《こわ》れぬように、箪笥の衣類の中や蒲団《ふとん》の中などに入れた。最後に椿《つばき》や南天《なんてん》の草花などを掘って、根を薦《こも》包みにして庭の一隅《かたすみ》に置いた。
 降るかと思った空は午前のうちに晴れた。荷物を満載《まんさい》した三台の引っ越し車はガラガラと町の大通りをきしって行く。ところどこ
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