の時町にいるものは、活版屋をしている沢田君ぐらいのものであった。清三はその往来した友の家々を暇乞《いとまご》いをして歩いた。北川の家には母親が一人いた。入り口ですまそうとするのを、「まアまアほんとうにお久しぶりでしたね」と無理に奥の座敷へと請《しょう》された。美穂子については、「あれも今年は卒業するのですけれど、意気地《いくじ》がなくって、学校が勤まりますかどうですか」などと言った。移転のことを聞いては「まアまアお名残り惜しい、……けれどまア貴君の身体《からだ》がおきまりになって、お引っ越しなさるんですから、結構ですねえ、お母さんもさぞお喜びでしょう。薫《かおる》がおれば、お手伝いぐらいいたすんですけれど、あれもこの七月には戦地に参るそうですから……」それからそれと、戦争の話やら町の話やらが続いた。母親の眼には、蒼白《あおじろ》い顔をした眼の濁った体《からだ》のやせた清三の姿がうつった。忍沼《おしぬま》のさびた水にはみぞかくしの花がところどころに白く見えた。加藤の家には母親も繁子も留守《るす》で、めずらしく父親がいた。上がって教育上の話などを一時間ばかりもした。羽生からいますこし近いと
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