てるさ」
「君は先生にラヴができるかね」
「いや」と清三は笑って、「ラヴはできるかどうかしらんが、単に外形美《がいけいび》として見てることは見てるさ」
「Aのほうは?」
「そんな考えはない」
郁治は躊躇《ちゅうちょ》しながら、「じゃ Art は?」
清三の胸は少しくおどった。「そうさね、機会が来ればどうなるかわからんけれど……今のところでは、まだそんなことを考えていないね」こう言いかけて急にはしゃいだ調子で、
「もし君が Art に行けば、……そうさな、僕はちょうど小畑《おばた》と Miss N とに対する関係のような考えで、君と Art に対するようになると思うね」
「じゃ僕はその方面に進むぞ」
郁治は一歩を進めた。
清三は今、車の上でその時のことを思い出した。心臓《しんぞう》の鼓動《こどう》の尋常《じんじょう》でなかったことをも思い出した。そしてその夜日記帳に、「かれ、幸《さち》多《おお》かれ、願はくば幸多かれ、オヽ神よ、神よ、かの友の清きラヴ、美しき無邪気なるラヴに願はくば幸多からしめよ、涙多き汝《なんじ》の手をもって願はくば幸多からしめよ、神よ、願ふ、親しき、友のために
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