れた。
かれはいつか寺を出て、例の街道を歩いていた。光線はキラキラした。青葉と青空の雲の影とが野の上にあった。
二三日前からしきりに報ぜられる壱岐沖《いきおき》の常陸丸遭難《ひたちまるそうなん》と得利寺《とくりじ》における陸軍の戦捷《せんしょう》とがくり返しくり返し思い出される。初瀬《はつせ》吉野《よしの》宮古《みやこ》の沈没などをも考えて、「はたして最後の勝利を占めることができるだろうか」という不安の念も起こった。
野にとうご草があるのを見て、それをとった。そばにある名を知らぬ赤い草花は学校の花壇に植えようと思って、根から掘って紙に包み、汚れた手をみそはぎの茂る小川で洗った。ふと一昨日浦和のひで子から来た手紙を思い出して、考えはそれに移る。羽生に移転してからの新家庭に、そのあきらかな笑顔を得たならば、いかに幸福であろうと思った。かれはこのごろひで子を自分の家庭にひきつけて考えることが多くなった。
羽生町の入り口では、東武鉄道の線路人夫がしきりに開通工事に忙しがっていたが、そのそばの藁葺家《わらぶきや》には、色のさめた国旗がヒラヒラと日に光った。
五十
羽生
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