紙に、「当年のしら滝は知らずしらずの間に終《つい》に母を護《まも》るの子たらんといたし居り候」と書いたこともある。
「羽生がいいよ……あまり田舎でもしかたがないし、羽生なら知ってる人も二三人はあるからね」
 母がこう言うと、
「そうだ、引っ越すなら、羽生がいい。得意先にもちょうどつごうがいい」
 父も同意する。
 そこには和尚さんもいれば、荻生さんもいる。学校にも一里半ぐらいしかないから、通うのにもそう難儀ではない。清三もこう思った。
 荻生さんにも頼んだ。ある日曜日を父親といっしょに羽生に出かけて行ってみたこともあった。その日は第二軍が遼東《りょうとう》半島に上陸した公報の来た日で、一週間ほど前の九連城戦捷《きゅうれんじょうせんしょう》とともに人々の心はまったくそれに奪われてしまった。街道にも町にも国旗が軒《のき》ごとにたえず続いた。
「万歳、万歳!」
 突然町の横町からこおどりして飛んで出て来るものもあった。どこの家でもその話ばかりで持ち切って、借家《しゃくや》などを教えてくれるものもなかった。
 ねぎ、しゅろ、ひるがお、ままこのしりぬぐいなどが咲き、梨、桃、梅の実は小指の頭ぐらい
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