》をはいているのを見て、
「どこから借りて来たえ、足駄《あしだ》を?」
「峰田《みねだ》で」
「そうかえ、峰田で借りて来たのかえ……。ほんとうにたいへんだったねえ」こう言って、雑巾《ぞうきん》を勝手から持って来ようとすると、
「雑巾ではだめだよ。母《おっか》さん。バケツに水を汲んでくださいな」
「そんなに汚れているかえ」
と言いながら勝手からバケツに水を半分ほど汲んで来る。
乾いた手拭《てぬぐ》いをもそこに出した。
清三はきれいに足を洗って、手拭いで拭いて上にあがった。母親はその間に、結城縞《ゆうきじま》の綿入れと、自分の紬《つむぎ》の衣服《きもの》を縫い直した羽織とをそろえてそこに出して、脱いだ羽織と袴《はかま》とを手ばしこく衣紋竹《えもんだけ》にかける。
二人はやがて長火鉢の前にすわった。
「どうだったえ?」
母親は鉄瓶《てつびん》の下に火をあらけながら、心にかかるその様子《ようす》をきく。
かいつまんで清三が話すと、
「そうだってねえ、手紙が今朝着いたよ。どうしてそんな不都合なことになっていたんだろうねえ」
「なあに、少し早く行き過ぎたのさ」
「それで、話はどうきまっ
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