と、風を引かぬようにつとむることと、煙草《たばこ》をやめることと、土曜日の帰宅を待つことと、それくらいがこのごろの仕事で、ほかにこれといって変わったこともなかった。しかし煙草と菓子とをやめるは容易ではなかった。気分がよかったり胃がよかったりすると、机のまわりに餅菓子のからの竹皮や、日の出の袋などがころがった。
 写生にはだいぶ熱中した。天気のよい暖かい日には、画板《がばん》と絵の具とをたずさえてよく野に出かけた。稲木《いなぎ》、榛《はん》の林、掘切《ほっきり》の枯葦《かれあし》、それに雪の野を描いたのもあった。ある日学校の付近の紅梅をえがいてみたが、色彩がまずいので、花が桃かなんぞのように見えた、嫁菜《よめな》、蓬《よもぎ》、なずななどの緑をも写した。
 月の末に、小畑から手紙が届いた。少しく病をえて、この春休みを故郷に送るべく決心した。久しぶりで一度会いたい。こちらから出かけて行くから、日取りを知らせてよこせとのことであった。旅順における第一回の閉塞《へいそく》の記事が新聞紙上に載せられてある日であった。清三は喜んで返事を出した。金曜日には行くという返事が折りかえして来る。清三は荻生
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