の話の出ぬところはなかった。憎いロシアだ、こらしてやれという爺《じじい》もあれば、そうした大国を敵としてはたして勝利を得らるるかどうかと心配する老人もあった。子供らは旗をこしらえて戦争の真似《まね》をした。けれどがいして田舎は平和で、夜はいつものごとく竹藪《たけやぶ》の外に藁屋《わらや》の灯《あかり》の光がもれた。ちょうど旧暦の正月なので、街道の家々からは、酒に酔《え》って笑う声や歌う声もした。
このごろかれは朝は六時半に起床し、夜は九時に寝た。正月の餅と饂飩《うどん》とに胃腸をこわすのを恐れたが、しかしたいしたこともなくてすぎた。節約に節約を加えた経済法はだんだん成功して負債《ふさい》もすくなくなり、校長の斡旋《あっせん》で始めた頼母子講《たのもしこう》にも毎月五十銭をかけることもできるようになった。午後の二時ごろにはいつも新聞が来た。戦争の始まってから、互いにかわった新聞を一つずつ取って交換して見ようという約束ができた。国民に万朝報に東京日日に時事、それに前の理髪舗《とこや》から報知を持って来た。
この多くの新聞を読むことと、日記をつけることと、運動をすることと、節倹をすること
前へ
次へ
全349ページ中280ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング