や蛇の目傘が通るばかり、庇《ひさし》の長く出た広い通りは森閑《しんかん》としている。郵便局の前には為替《かわせ》を受け取りに来た若い女が立っているし、呉服屋の店には番頭と小僧とがかたまって話をしているし、足袋《たび》屋の店には青縞と雲斎織《うんさいお》りとが積《つ》み重ねられたなかで、職人がせっせと足袋《たび》を縫っていた。新式に硝子《がらす》戸の店を造った唐物屋《とうぶつや》の前には、自転車が一個、なかばは軒の雨滴《あまだ》れにぬれながら置かれてある。
町の四辻には半鐘台《はんしょうだい》が高く立った。
そこから行田道《ぎょうだみち》はわかれている。煙草屋《たばこや》、うどん屋、医師《いしゃ》の大きな玄関、塀《へい》の上にそびえている形のおもしろい松、吹井《ふきい》が清い水をふいている豪家の前を向こうに出ると、草の生《は》えた溝《みぞ》があって、白いペンキのはげた門に、羽生分署という札がかかっている。巡査が一人、剣をじゃらつかせて、雨の降りしきる中を出て来た。
それからまた裏町の人家が続いた。多くはこけら葺《ぶき》の古い貧しい家|並《な》みである。馬車屋の前に、乗合馬車が一台あ
前へ
次へ
全349ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング