た。
路の曲がったところに、古い石が立ててある。維新前からある境界石で、「これより羽生領《はにゅうりょう》」としてある。
ひょろ長い榛《はん》の片側並木が田圃《たんぼ》の間に一しきり長く続く。それに沿って細い川が流れて萌《も》え出した水草のかげを小魚《こうお》がちょろちょろ泳いでいる。羽生から大越《おおごえ》に通う乗合馬車が泥濘《どろ》を飛ばして通って行った。
来る時には、路傍《みちばた》のこけら葺《ぶき》の汚ないだるま[#「だるま」に傍点]屋の二階の屋根に、襟垢《えりあか》のついた蒲団《ふとん》が昼の日ののどかな光に干されて、下では蒼白い顔をした女がせっせと張《は》り物《もの》をしていたが、今日は障子がびっしゃりと閉じられて、日当たりの悪いところには青ごけの生えたのが汚なく眼についた。
だんだん道が悪くなって来た。拾って歩いてもピシャピシャしないようなところはもうなくなった。足の踵《かかと》を離さないようにして歩いても、すりへらした駒下駄からはたえずハネ[#「ハネ」に傍点]があがった。風が出て雨も横しぶきになって袖《そで》もぬれてしまった。
羽生の町はさびしかった。時々番傘
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