眼下に横たわっている大都会、甍《いらか》が甍に続いて、煙突《えんとつ》からは黒いすさまじい煙《けむり》があがっているのが見える。あちこちから起こる物音が一つになって、なんだかそれが大都会のすさまじい叫びのように思われる。ここに罪悪もあれば事業もある。功名もあれば富貴《ふうき》もある。飢餓《きが》もあれば絶望もある。新聞紙上に毎日のようにあらわれて来る三面事故のことなども胸にのぼった。
竹の台からおりると、前に広小路の雑踏《ざっとう》がひろげられた。馬車鉄道があとからあとからいく台となく続いて行く。水撒夫《みずまき》がその中を平気で水をまいて行く。人力車が懸《か》け声ではしって行く。
しばらくして、清三の姿は、その通りの小さい蕎麦屋《そばや》に見られた。
「いらっしゃい!」
と若い婢《おんな》の黄いろい声がした。
「ざる一つ!」
という声がつづいてした。
清三は夕日のさし込んで来る座敷の一隅《かたすみ》で、誂《あつら》えの来る間を、大きな男が大釜の蓋《ふた》を取ったり閉《た》てたりするのを見ていた。釜の蓋を取ると、湯気が白くぱッとあがった。長い竹の箸《はし》でかき回して、ザ
前へ
次へ
全349ページ中255ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング