心の中に計画してやって来た。田舎の空気によごれた今までの生活をのがれて、新しい都会の生活をこれから開くのだと思うと、中学を出たころの若々しい気分にもなれた。昨日|吹上《ふきあげ》の停車場をたつ時には、久しぶりで、さまざまの希望の念が胸にみなぎったのである。かれはロハ台に横《よこ》たわりながら、その希望と今の失望との間にはさまった一場の光景をまた思い浮かべた。
ロハ台から起き上がる気分になるまでには、少なくとも一時間はたった。馬車はもういなかった。なにがし子爵《ししゃく》夫人ともいいそうなりっぱな貴婦人が、可愛らしい洋服姿の子供を三四人つれてそこから出て来て、嬉々《きき》として馬車に乗ると、御者は鞭《むち》を一|当《あて》あてて、あとに白い埃《ほこり》を立てて、ガラガラときしって行った。その白い埃を見つめたのをかれは覚えている。「せめて動物園でも見て行こう」と思ってかれは身を起こした。
丹頂《たんちょう》の鶴《つる》、たえず鼻を巻く大きな象、遠い国から来たカンガルウ、駱駝《らくだ》だの驢馬《ろば》だの鹿だの羊だのがべつだん珍らしくもなく歩いて行くかれの眼にうつった。ライオンの前ではそ
前へ
次へ
全349ページ中253ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング