かれのためになつかしい町、恋しい町、忘れがたい町であったが、今はそれさえ他郷の人となってしまった。神燈《じんとう》の影《かげ》艶《なまめ》かしい細い小路をいくら歩いても、にこにこといつも元気のいい顔を見せて、幼いころの同窓のよしみを忘れない「われらの小滝」を見ることはできなくなったのである。清三は三が日をすますと、母親のとめるのをふりはなって、今までにかつてないさびしい心を抱いて、西風の吹き荒れる三里の街道を弥勒《みろく》へと帰って来た。
それでも懐《ふところ》には中田に行くための金が三円残してあった。
三十六
三月のある寒い日であった。
渡良瀬川《わたらせがわ》の渡し場から中田に来る間の夕暮れの風はヒュウヒュウと肌《はだ》を刺《さ》すように寒く吹いた。灰色の雲は空をおおって、おりおり通る帆の影も暗かった。
灯のつくころ、中田に来て、いつもの通り階段《はしご》を上がったが、なじみでない新造《しんぞ》が来て、まじめな顔をして、二階の別の室《へや》に通した。いつも――客がいる時でも、行くとすぐ顔を見せた女がやって来ない。不思議にしていると、やがてなじみの新造《しん
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