伊勢崎の豪商に根曳《ねび》きされる話がひやかし半分に書いてある。小滝には深谷の金持ちの息子《むすこ》で、今年大学に入学した情人《いいひと》があった。その男に小滝は並々ならぬ情《なさけ》を見せたが、その家には許婚《いいなずけ》のこれも東京の跡見女学校にはいっている娘があって、とうてい望みを達することができぬので、泣きの涙で、今度いよいよ落籍《ひか》されることになったと書いてある。その豪商は年は四十五六で、女房も子もある。「どうせ一二年辛い年貢《ねんぐ》を納めると、また舞いもどって二度のお勤め、今晩は――と例のあでやかな声が聞かれるだろうから、今からおなじみの方々はその時を待っているそうだ」などとひやかしてあった。ほんとうの事情は知らぬが、清三はそうした社会に生《お》い立《た》った女の身の上を思わぬわけにはいかなかった。思いのままにならぬ世の中に、さらに思いのままにならぬ境遇に身をおいて、うき草のように浮き沈みしていくその人々の身の上がしみじみと思いやられる。小滝のある間は――その美しい姿と艶なる声とのする間は、友人が離散し去っても、幼いころの追憶《おもいで》が薄くなっても、熊谷の町はまだ
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