貨ばかりの財布を振って見せた。関さんもやっぱり持っていなかった。いく度か躊躇《ちゅうちょ》したが、思い切って最後に校長に話した。校長は貸してくれた。昨日の朝、行田から送って来る新聞の中に交って、見なれぬ男の筆跡《ひっせき》で、中田の消印のおしてある一通の封書のはいっていたのを誰も知らなかった。
午後から行田の家に行くとて出かけたかれは、今泉にはいる前の路から右に折れて、森から田圃《たんぼ》の中を歩いて行った。しばらくして利根川の土手にあがる松原の中にその古い中折《なかおれ》の帽子が見えた。大高島に渡る渡船《わたし》の中にかれはいた。
三十四
渡良瀬川の渡しをかれはすくなくとも月に二回は渡った。秋はしだいにたけて、楢《なら》の林の葉はバラバラと散った。虫の鳴いた蘆原《あしはら》も枯れて、白の薄《すすき》の穂が銀《しろがね》のように日影に光る。洲《す》のあらわれた河原には白い鷺《さぎ》がおりて、納戸色《なんどいろ》になった水には寒い風が吹きわたった。
麦倉《むぎくら》の婆の茶店にももう縁台は出ておらなかった。栃《とち》の黄《き》ばんだ葉は小屋の屋根を埋めるばかりに散
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