《ち》り積《つ》もった。農家の庭に忙しかった唐箕《とうみ》の音の絶えるころには、土手を渡る風はもう寒かった。
 その長い路《みち》を歩く度数は、女に対する愛情の複雑してくる度数であった。追憶《おもいで》がだんだんと多くなってきた、帰りを雨に降られて本郷の村落のとっつきの百姓家にその晴れ間《ま》を待ったこともある。夜遅く栗橋に出て大越の土手を終夜歩いて帰って来たこともある。女の心の解《げ》しがたいのに懊悩《おうのう》したことも一度や二度ではなかった。遊廓にあがるものの初めて感ずる嫉妬《しっと》、女が回しを取る時の不愉快にもやがてでっくわした。待っても待っても、女はやって来ない。自己の愛する女を他人が自由にしている。全身を自己に捧げていると女は称しながら、それがはたしてそうであるか否かのわからない疑惑――男が女に対するすべての疑惑をだんだん意識してきた。女はまた女で、その男の疑惑につれて、時々容易に示さない深い情《なさけ》を見せて、男の心をたくみに奪った。「もうこれっきり行かん。あれらは男の機嫌をとるのを商売にしているんだ。あれらの心は幾様《いくよう》にも働くことができるようにできている。
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