しない深い溝《みぞ》が築かれたように思われる。もう自分は堕落したというような悔いもあった。
 麦倉河岸《むぎくらがし》には涼しそうな茶店があった。大きな栃《とち》の木が陰をつくって、冷《つ》めたそうな水にラムネがつけてあった。かれはラムネに梨子《なし》を二個ほど手ずから皮をむいて食って、さて花茣蓙《はなござ》の敷いてある木の陰の縁台を借りてあおむけに寝た。昨夜ほとんど眠られなかった疲労が出て、頭がぐらぐらした。涼しい心地のいい風が川から来て、青い空が葉の間からチラチラ見える。それを見ながらかれはいつか寝入った。
 かれが寝ている間、渡し場にはいろいろなことがあった。鶏のひよっ子を猫がねらって飛びつこうとするところを茶店の婆さんはあわてておうと、猫が桑畑の中に入ってニャアニャア鳴いた。渡し舟は着くたびにいろいろな人を下ろしてはまたいろいろな人を載《の》せて行った。自転車を走らせて来た町の旦那衆もあれば、反物《たんもの》を満載した車をひいて来た人足もある。上流の赤岩に煉瓦《れんが》を積んで行く船が二|艘《そう》も三艘も竿を弓のように張って流れにさかのぼって行くと、そのかたわらを帆を張った舟
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