。清三の麦稈《むぎわら》帽子は毎年出水につかる木影のない低地《ていち》の間の葉のなかば赤くなった桑畑に見え隠れして動いて行った。行く先には田があったり畠があったりした。川原の草藪《くさやぶ》の中にはやはりキリギリスが鳴いた。
河岸《かし》の渡《わた》し場では赤い雲が静かに川にうつっていた。向こう岸の土手では糸経《いとだて》を着て紺の脚絆《きゃはん》を白い埃《ほこり》にまみらせた旅商人《たびあきんど》らしい男が大きな荷物をしょって、さもさも疲れたようなふうをして歩いて行った。そこからは利根《とね》渡良瀬《わたらせ》の二つの大きな河が合流するさまが手に取るように見える。栗橋の鉄橋の向こうに中田の遊郭の屋根もそれと見える。かれはしばし立ちどまって、別れて来た女のことを思った。
本郷の村落《むら》を通って、路《みち》はまた土手の上にのぼった。昨日向こう岸から見て下った川を今日はこの岸からさかのぼって行くのである。昨日の心地と今日の心地とを清三はくらべて考えずにはいられなかった。おどりがちなさえた心と落ちついたつかれた心! わずかに一日、川は同じ色に同じ姿に流れているが、その間には今まで経験
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