の笑顔を美しいと清三は思った。室の裏は物干しになっていて、そこには月がやや傾きかげんとなってさしていた。隣では太鼓と三絃《しゃみせん》の音がにぎやかに聞こえた。
三十二
翌日は昼過ぎまでいた。出る時、女が送って出て、「ぜひ近いうちにね、きっとですよ」と私語《ささや》くように言った。昨夜、床の中で聞いた不幸《ふしあわせ》な女の話が流るるように胸にみなぎった。
渡《わた》しをわたって栗橋に出て昨日の路《みち》を帰るのはなんだか不安なような気がした。土手で知ってる人に会わんものでもない。行田に行ったというものが方角違いの方面を歩いていては人に怪しまれる。で、かれは昨夜聞いておいた鳥喰《とりはみ》のほうの路を選んで歩き出した。初会《しょかい》にも似合わず、女はしんみりとした調子で、その父母の古河《こが》の少し手前の在《ざい》にいることを打ち明けて語った。その在郷に行くにはやはり鳥喰を通って行くのだそうだ。鳥喰の河岸《かし》には上州《じょうしゅう》の本郷に渡る渡良瀬川《わたらせがわ》のわたし場があって、それから大高島まで二里、栗橋に出て行くよりもかえって近いかもしれなかった
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