けむり》を立てて通って行くのが見えた。
 土手を下りて旗井《はたい》という村落にはいったころには、もうとっぷりと日が暮れて、灯《あかり》がついていた。ある百姓家では、垣のところに行水盥《ぎょうずいだらい》を持ち出して、「今日は久しぶりでまた夏になったような気がした」などと言いながら若いかみさんが肥《こ》えた白い乳を夕闇の中に見せてボチャボチャやっていた。鉄道の踏切《ふみきり》を通る時、番人が白い旗を出していたが、それを通ってしまうと、上り汽車がゴーと音を立てて過ぎて行った。かれは二三度路で中田への渡《わた》し場《ば》のありかをたずねた[#「たずねた」は底本では「はずねた」]。夜が来てからかれは大胆になった。もう後悔の念などはなくなってしまった。ふと路傍に汚ない飲食店があるのを発見して、ビールを一本傾けて、饂飩《うどん》の盛りを三杯食った。ここではかみさんがわざわざ通りに出て渡船場《わたしば》に行く路を教えてくれた。
 十日ばかりの月が向こう岸の森の上に出て、渡船場《わたしば》の船縁《ふなべり》にキラキラと美しく砕《くだ》けていた。肌《はだ》に冷やかな風がおりおり吹いて通って、やわらかな
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