落では、青縞《あおじま》の賃機《ちんばた》が盛んで、若い男や女が出はいりするので、風俗もどうも悪い。七八歳の子供が卑猥《ひわい》きわまる唄《うた》などを覚えて来てそれを平気で学校でうたっている。
「私がここに来てから、もう三年になりますが、その時分《じぶん》は生徒の風儀はそれはずいぶんひどかったものですよ。初めは私もこんなところにはとてもつとまらないと思ったくらいでしたよ。今では、それでもだいぶよくなったがな」と校長は語った。
帰る時に、
「明日《あした》は土曜日ですから、日曜にかけて一度|行田《ぎょうだ》に帰って来たいと思いますが、おさしつかえはないでしょうか?」
かれはこうたずねた。
「ようござんすとも……それでは来週から勤めていただくように……」
その夜はやはり役場の小使|室《べや》に寝た。
四
朝起きると春雨《はるさめ》がしとしとと降っていた。
ぬれた麦の緑と菜の花の黄いろとはいつもよりはきわだって美しく野をいろどった。村の道を蛇《じゃ》の目《め》傘《がさ》が一つ通って行った。
清三は八時過ぎに、番傘《ばんがさ》を借りて雨をついて出た。それには三田
前へ
次へ
全349ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング