はいって、主人と細君とをしばり上げて金を奪って行った話、繭《まゆ》の仲買《なかが》いの男と酌婦《しゃくふ》と情死《しんじゅう》した話など、聞けば聞くほど平和だと思った村にも辛い悲しいライフがあるのを発見した。地主と小作人との関係、富者と貧者のはなはだしい懸隔《けんかく》、清い理想的の生活をして自然のおだやかな懐《ふところ》に抱かれていると思った田舎もやっぱり争闘の巷《ちまた》利欲《りよく》の世であるということがだんだんわかってきた。
それに、田舎は存外|猥褻《わいせつ》で淫靡《いんび》で不潔であるということもわかってきた。人々の噂話《うわさばなし》にもそんなことが多い。やれ、どこの娘はどうしたとか、どこのかみさんはどこの誰と不義をしているとか、誰はどこにこっそり妾《めかけ》をかこっておくとか、女のことで夫婦喧嘩が絶えないとか、そういうことがたえず耳を打つ。それに、そうした噂がまんざら虚偽《うそ》でないという証拠《しょうこ》も時には眼にもうつった。
かれは一日《あるひ》、また利根川のほとりに生徒をつれて行ったが、その夜、次のような新体詩を作って日記に書いた。
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