友人たちをこうしたハードライフを送る人々にくらべて考えてみた。続いて日ごとに新聞紙上にあらわれる豪《えら》い人々のライフをも描いてみた。豪い人にはそれはなりたい、りっぱな生活を送りたい。しかし平凡に生活している人もいくらもある。一家の幸福――弱い母の幸福を犠牲にしてまでも、功名におもむかなくってはならぬこともない。むしろ自分は平凡なる生活に甘んずる。こう考えながらかれは歩いた。
寒い日に体《からだ》を泥の中につきさしてこごえ死んだ爺《おやじ》の掘切《ほっきり》にも行ってみたことがある。そこには葦《あし》と萱《かや》とが新芽を出して、蛙《かわず》が音を立てて水に飛び込んだ。森の中には荒れはてた社《やしろ》があったり、林の角《かど》からは富士がよく見えたり、田に蓮華草《れんげそう》が敷いたようにみごとに咲いていたりした。それにこうして住んでみると、聞くともなしに村のいろいろな話が耳にはいる。家事を苦にして用水に身を投げた女の話、旅人《りょじん》にだまされて林の中に引《ひ》っ張《ぱ》り込まれて強姦《ごうかん》された村の子守りの話、三人組の強盗が抜刀《ばっとう》で上村《かみむら》の豪農の家に
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