学校に行くと、その生徒たちはめずらしいことを見て知っているというふうにそれを他の生徒に吹聴《ふいちょう》した。「先生、昨日書いてた絵を見せてください!」などと言った。
 清三はだんだん近所のことにくわしくなった。林の奥に思いもかけぬ一軒家があることも知った。豪農の家の樫《かし》の垣の向こうに楊《やなぎ》の生えた小川があって、そこに高等二年生で一番できる女生徒の家があることをも知った。その家には草の茂った井戸があって桔※[#「槹」の「白」に代えて「自」、168−11]《はねつるべ》がかかっていた。ちょうどその時その娘はそこに出ていた。「お前の家はここだね」と言って通り抜けようとすると、「おっかさん、先生が通るよ!」と言った。母親は小川で後ろ向きになってせっせと何か物を洗っていた。加須《かぞ》に通う街道には畠があったり森があったり榛《はん》の並木があったりした。ある時|楢《なら》の林の中に色のこい菫《すみれ》が咲いていたのを発見して、それを根ごしにして取って来て鉢《はち》に植えて机の上に置いた。村をはずれると、街道は平坦《へいたん》な田圃《たんぼ》の中に通じて、白い塵埃《ちりほこり》がかす
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