》が咲くころになると、清三は散歩を始めた。古ぼけた茶色の帽子をかぶった背のすらりとしたやせぎすな姿はそこにもここにも見えた。百姓は学校の若い先生が野川の橋の上に立って、ぼんやりと夕焼けの雲を見ているのを見たこともあるし、朝早く役場の向こうの道を歩いているのに出会うこともあった。役場の小使と立ち話をしていることもあれば、畠にいる人々と挨拶《あいさつ》していることもある。時には、学校の女生徒を、二三人つれて、林の中で花を摘《つ》ませて花束を作らせたりなんかしていることなどもある。
弥勒野《みろくの》の林の角《かど》で、夕暮れの空を写生していると、
「やア、先生だ、先生だ!」
「先生が何か書いてらア」
「やア画を描《か》いてるんだ!」
「あの雲を描いてるんだぜ」
などと近所の生徒がぞろぞろとそのまわりに集まって来る。
「うまいなア、先生は」
「それは当たり前よ、先生じゃねえか」
「あああれがあの雲だ」
「その下のがあの家《うち》だ」
黙って筆を運ばせていると、勝手なことを言ってしゃべっている。どうしてあんなうまく書けるのかと疑うかのように、じっと先生の顔をのぞきこむ子などもあった。翌日
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