いんです。二三日のうちにはすっかり村会で決《き》めてしまうつもりですから、来週からは出ていただけると思いますが……」こう言って、少しとぎれて、
「私のほうの学校はみんないい方ばかりで、万事《ばんじ》すべて円《まる》くいっていますから、始めて来た方にも勤めいいです。貴下《あなた》も一つ大いに奮発していただきたい。俸給もそのうちにはだんだんどうかなりますから……」
煙草《たばこ》を一服吸ってトンとたたいて、
「貴下はまだ正教員の免状は持っていないんですね?」
「ええ」
「じゃ一つ、取っておくほうが、万事|都合《つごう》がいいですな。中学の証明があれば、実科を少しやればわけはありゃしないから……教授法はちっとは読みましたか」
「少しは読んでみましたけれど、どうもおもしろくなくって困るんです」
「どうも教授法も実地に当たってみなくってはおもしろくないものです。やってみると、これでなかなか味が出てくるもんですがな」
学校教授法の実験に興味《きょうみ》を持つ人間と、詩や歌にあくがれている青年とがこうして長く相対《あいたい》してすわった。点心《ちゃうけ》には大きい塩煎餅《しおせんべい》が五六枚盆
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