て雇われて二年ほどいた。伊勢の大廟《たいびょう》から二見の浦、宇治橋の下で橋の上から参詣《さんけい》人の投げる銭《ぜに》を網で受ける話や、あいの山で昔女がへらで銭《ぜに》を受けとめた話などをして聞かせた。朝熊山《あさまやま》の眺望、ことに全渓《ぜんけい》みな梅《うめ》で白いという月ヶ瀬の話などが清三のあくがれやすい心をひいた。それから京都奈良の話もその心をひき寄せるに十分であった。和尚さんの行った時は、ちょうど四月の休暇のころで、祇園《ぎおん》嵐山《あらしやま》の桜は盛《さか》りであった。
「行違ふ舞子の顔やおぼろ月」という紅葉山人《こうようさんじん》の句を引いて、新京極《しんきょうごく》から三条の橋の上の夜のにぎわいをおもしろく語った。その時は和尚さんもうかれ心になって雪駄《せった》を買って、チャラチャラ音をさせて、明るいにぎやかな春の町を歩いたという。奈良では大仏、若草山、世界にめずらしいブロンズの仏像、二千年昔の寺院などいうのをくまなく見た。清三の孤独なさびしい心はこれを聞いて、まだ見ぬところまだ見ぬ山水《さんすい》まだ見ぬ風俗にあくがれざるを得なかった。「一生のうち一度は行って
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