みたい」こう思ってかれは自己のおぼつかない前途を見た。
年の暮れはしだいに近寄って来た。行田の母からは、今年の暮れはあっちこっちの借銭《しゃくせん》が多いから、どうか今から心がけて、金をむやみに使ってくれぬようにと言ってよこした。蒲団が薄いので、蝦《えび》のようにかがめて寝る足は終夜《しゅうや》暖まらない。宅《うち》に言ってやったところでだめなのは知れているし、でき合いを買う余裕もないので、どうかして今年の冬はこれで間に合わせるつもりで、足のほうに着物や羽織や袴《はかま》をかけたが、日ごとにつのる夜寒《よさむ》をしのぐことができなかった。やむなくかれは米ずしから四布蒲団《よのぶとん》を一枚借りることにした。その日の日記に、かれは「今夜よりやうやく暖かに寝ることを得」と書いた。
行田から羽生に通う路は、吹きさらしの平野のならい、顔も向けられないほど西風が激しく吹きすさんだ。日曜日の日の暮れぐれに行田から帰って来ると、秩父の連山の上に富士が淡墨色《うすずみいろ》にはっきりと出ていて、夕日が寒く平野に照っていた。途中で日がまったく暮れて、さびしい田圃道《たんぼみち》を一人てくてくと歩いて
前へ
次へ
全349ページ中168ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング