が、かれはいつもそこに来ると足をたたずめて立ちつくした。かれの故郷なる足利町は、その波濤《はとう》のように起伏した皺《しわ》の多い山の麓《ふもと》にあった。一日《あるひ》、かれはその故郷の山にすでに雪の白く来たのを見た。
 和尚さんも長い夜を退屈がって、よく本堂にやって来て話した。夜など茶をいれましたからと小僧を迎えによこすこともある。庫裡《くり》の奥の六畳、その間には、長火鉢に鉄瓶《てつびん》が煮えたって、明るい竹筒台《たけづつだい》の五分心の洋燈《らんぷ》のもとに、かみさんが裁縫をひろげていると、和尚さんは小さい机をそのそばに持って来て、新刊の雑誌などを見ている。さびしい寺とは思えぬほどその一|間《ま》は明るかった。茶請《ちゃうけ》は塩|煎餅《せんべい》か法事でもらったアンビ餅で、文壇のことやそのころの作者|気質《かたぎ》や雑誌記者の話などがいつもきまって出たが、ある夜、ふと話が旅行のことに移って行った。和尚さんはかつて行っていた伊勢《いせ》の話を得意になって話し出した。主僧は早稲田を出てから半歳《はんとし》ばかりして、伊勢の一身田《いしんでん》の専修寺の中学校に英語国語の教師とし
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